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東京地方裁判所 昭和60年(合わ)254号 判決

主文

被告人Aを懲役七年に、被告人自称Bを懲役三年六月に処する。

被告人両名に対し、未決勾留日数中各一五〇日を、それぞれその刑に算入する。

被告人Aから、押収してある回転弾倉式改造拳銃一挺(昭和六〇年押第一四六六号の1)並びに散弾実包一一四発及び薬莢一〇個(同押号の2)を没収する。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人Aは、福岡県内の高等学校を卒業後上京し、叔父の経営する証券会社に就職して稼働する傍、大学夜間部に進学したものの、その後大学を中退し、昭和四一年には右会社も退職して再び郷里に戻り、福岡市内において、自動車のセールスマンなど職を転々としながら、その間の昭和四四年五月結婚し、二子を儲けたものの、昭和五九年六月には妻子を残して家を出、同年一〇月頃は同市内のパチンコ店「ラッキーセブン」で住込み店員として稼働していた者、被告人自称B(以下「自称」を省略する。)は、出生間もなくの頃、同市内の乳児院に収容され、その後養父母に育てられて成長し、短期大学を卒業した後銀行に就職したが、間もなく、養父母の反対を押し切つて職場結婚をしたものの破綻し、離婚後は同市内の飲食店やパチンコ店などで店員をして働き、昭和五九年一〇月頃から、前記「ラッキーセブン」の住込み店員として稼働していた者であるが、被告人両名は、同店で知り合うや懇ろとなり、同年一一月には同店に居辛くなつて同店を辞め、一緒に上京して今後の身の振り方を話し合つた結果、被告人Aが、予て、同被告人の実妹Yの夫で、松江市で政治結社尊皇義塾「仁義社」(以下「仁義社」という。)を主宰するXから右「仁義社」への参加を誘われていたこともあつて、同人を頼ることにし、同年一二月上旬頃、共に、同市に赴き、しばらく同人方に寄宿したが、同月末、島根県八束郡玉湯町大字湯町一一五番地所在のマンションゆまち三〇一号室に移り住んだ。「仁義社」は、前記Xを主宰者として昭和四四年九月に結成された右翼の政治結社で、松江市嫁島町一三番三一号にX方居宅を兼ねて本部事務所を置き、「憲法改正」「日教組の偏向教育是正」「教育勅語復活」などの活動方針を掲げ、特に日本教職員組合(以下日教組という。)の活動に対しては強い反感を持ち、各地で日教組大会が開催される度に、これを妨害する目的で街頭宣伝活動等をしていたものであり、被告人Aは、昭和五九年一二月、同市に赴き「仁義社」に加入してからは事務所番等の雑用に従事していたが、世話になつているXや「仁義社」のために、他の者ではできない分野で役に立つことを何かしたいと思つていたところ、Xが「右翼はテロだ。」「一人一殺だ。」「仁義社でも武器が必要だ。」などと言うのを聞いて、Xや「仁義社」のために爆弾や改造拳銃を造つてみようという気になり、その旨をXに伝えたところ、同人から研究を進めるよう指示され、更に、そのために資金が要るようであればこれを提供する旨申し渡された。そこで、被告人Aは、昭和六〇年一月一〇日頃から島根県立図書館に通い、爆発物、銃器等に関する書籍や過去の爆弾事件に関する新聞記事等を閲読するなどして研究し、同年二月一一日早速同市内の模型店で金属製モデルガンを購入し、これを改造して拳銃を造る作業に取り掛かる一方、その頃から同市内の玩具店等で玩具花火を買い集め、被告人Bと一緒に前記マンシヨンゆまち三〇一号の自室で、これをほぐして中の火薬を取り出した上、同月下旬から同年四月中旬にかけて前後三回に亙り、右火薬を、ガラス製薬瓶、ガラス製のインスタント・コーヒーの瓶、金属製の梅昆布茶缶にそれぞれ詰め、その中に、いずれもリード線を接続させたガス点火用ヒーターを埋め、電源に乾電池を用いて通電させ、これを爆発させて火薬に対する着火速度、容器の種類や火薬の量に応じた爆発の威力などについての実験を行い、その結果、四個の乾電池をヒーターに直列につないで通電すればほぼ瞬時に火薬に着火することや各爆発の状況、威力の相違等を確認し、爆発物製造についての自信を深めていつた。被告人Aは、右実験の途中である同年三月二一日、Xから、予て同人に入手方を依頼していた散弾実包を渡された上、その中の火薬と鉛玉を全部詰めて「仁義社」の事務所を吹き飛ばす位の茶筒缶爆弾を造るよう指示されたが、散弾実包の中の火薬は、将来本体に鋳鉄管等を利用した更に威力の強い爆弾を製造する際に用いるために取つておき、今回は、玩具花火の火薬を使用することとし、同年五月上旬、被告人Bを同道するなどして、手製爆弾の本体として使う茶筒缶、起爆装置に使う乾電池、電池ホルダー、更に、爆発時に飛散させて爆発の威力を高めるためのパチンコ球等を購入し、次いで、前記被告人自室において、先に買い集めていた花火を、被告人Bと共にほぐして火薬を取り出す作業を進め、更に、被告人両名が相協力して、起爆装置であるガス点火用ヒーターにリード線を半田付けしたり、花火をほぐして取り出した火薬や右ヒーター、パチンコ球等を茶筒缶内に詰めたり、接着剤で外蓋と缶本体を接着して密封状態にした右茶筒缶を贈答用化粧箱に収納したりする等の作業を行い、うち一個は贈答用化粧箱の蓋を開披すると乾電池の電極間に挾んでおいた絶縁板が抜け、ガス点火用ヒーターに通電して爆発するもの、他の一個はタイマーで爆発時刻を調節することができる時限式のものにして合計二個の茶筒缶爆弾を製造し、同月中旬頃、被告人Aにおいてこれらを「仁義社」に持参してXに見せ、その仕組を説明した。

(罪となるべき事実)

第一  被告人Aは、昭和六〇年五月下旬頃、Xから、前記手製爆弾を、いずれも贈答用化粧箱の蓋を開披すると爆発する仕掛のものにして、日教組宛に郵送するよう指示され、更に、その後Yを介してXから送り先として日教組中央執行委員長田中一郎及び三重県教職員組合(以下三重県教組という。)中央執行委員長山本正和を指示されてその各住所等が記載されたメモを手渡されるや、自らも右手製爆弾二個を、うち一個はXの指示どおりに起爆構造を改造した上で、右田中ら宛に郵送してこれを爆発させ日教組の活動に打撃を与えようと決意し、そして被告人Bにも事の次第を告げた。被告人Aから事の次第を聞かされた被告人Bは、被告人Aと最後まで行動を共にしようと考え、自らも右手製爆弾二個を右田中ら宛に郵送してこれを爆発させようと決意し、これに同調した。しかして、同月二五日、被告人Aが、「仁義社」に赴き、Xに対し、右手製爆弾二個を同月二七日に広島から発送する旨報告し、同人の了承を得た。ここにおいて、被告人両名は、Xと互に意思を相通じて、右手製爆弾二個を日教組本部と三重県教組に送り付けてこれを爆発させて使用することの共謀を遂げ、

一  治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもつて、昭和六〇年五月二七日午後五時頃、被告人Bにおいて、広島市南区松原町二番六二号所在の広島中央郵便局から津市桜橋二丁目一四二番地所在の三重県教育文化会館内三重県教組中央執行委員長山本正和宛に、前記手製爆弾二個のうち、茶筒缶に過塩素酸カリウム、硝酸カリウム等を主薬とする玩具煙火火薬約五八〇グラム及び鉛製の釣用錘多数個を充填し、これに乾電池、ガス点火用ヒーター等からなる起爆装置を接続させ、これらを贈答用化粧箱に収納し、その蓋を開披することにより乾電池の電極間に挾んでいる絶縁板が抜け右ヒーターに通電して爆発する構造を有するもの一個を、普通小包郵便物として差し出し、同月二八日同会館に郵送せしめ、同日午後三時五分頃、同会館二階所在の同教組書記局事務室においてこれを爆発させ、もつて、爆発物を使用し、

二  治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的をもつて、同月二七日午後五時頃、被告人Bにおいて、前記広島中央郵便局から東京都千代田区一ツ橋二丁目六番二号所在の日本教育会館内日教組本部中央執行委員長田中一郎宛に、前記手製爆弾二個のうち、茶筒缶に過塩素酸カリウム、硝酸カリウム、ピクリン酸カリウム等を主薬とする玩具煙火火薬約五八二グラム、パチンコ球七五個及び鉛製の釣用錘一九個を充填し、これに前同様の起爆装置を接続させ、これらを贈答用化粧箱に収納し、その片開きの蓋を開披することにより乾電池の電極間に挾んでいる絶縁板が抜けガス点火用ヒーターに通電して爆発する構造を有するもの一個を、普通小包郵便物として差し出し、同人の許に郵送せしめてこれを爆発すべき状態に置こうとしたが、同月二九日午後五時頃、同会館一階の日教組用郵便受けに配達されていた右小包を見て不審を抱いた日教組職員が右小包をそのままにして警察官に届け出るに至り、もつて、爆発物を使用せんとするの際発覚し、

第二  被告人Aは、法定の除外事由がないのに、同年七月一二日頃、松江市朝日町官有無番地日本国有鉄道松江駅構内のコインロッカー内に、回転弾倉式改造拳銃一挺(昭和六〇年押第一四六六号の1)及び火薬類である散弾実包一二四発(同押号の2、但し、うち一〇発は鑑定のため実射し薬莢一〇個として押収)を収納して隠匿所持し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人及び被告人の主張に対する判断)

一「爆発物」該当性について

1  被告人Aの弁護人は、被告人両名が製造した本件各手製爆弾は、いずれも極めて微弱な威力しか有せず、爆発物取締罰則にいわゆる「爆発物」には該当しない旨主張するので、この点につき判断する。

2 爆発物取締罰則にいわゆる「爆発物」とは、理化学上の爆発現象を惹起するような不安定な平衡状態において、薬品その他の資材が結合している物体であつて、その爆発作用そのものによつて公共の安全を乱し又は人の身体財産を害するに足る破壊力を有するものを指称し、その破壊力の程度についても、社会通念上通常人に危害を感じさせる程度の爆発性能を有するものであれば足り、進んでその爆発性能が極めて高度であり又は不特定多数人の身体財産に対し甚大な被害を与えるに足ることを要しないと解すべきところ、前掲関係各証拠によれば、被告人両名が製造した本件各手製爆弾の構造及び威力は次のとおりであつたことが認められる。即ち、

(一) その構造は、いずれも、ブリキ製茶筒缶(日教組本部に郵送したものは直径約八・二五センチメートル、高さ約一六・五センチメートル、三重県教組に郵送したものは本体の直径約八・三センチメートル、同高さ約一五・九センチメートル)の中に、リード線を付けたガス点火用ヒーターを入れ、次いで、玩具花火をほぐして取り出した過塩素酸カリウム、硝酸カリウム等を主成分とする火薬や鉛製の釣用錘等を詰めた上、プラスチック製の中蓋をし、最後に接着剤で外蓋と缶本体を接着して缶を密封状態にしてこれを贈答用化粧箱の中に収納し、火薬の中に埋め込んだ右ヒーターのリード線に電池ホルダーのリード線を接続し、化粧箱の蓋を開披すると四個の直列乾電池の電極間に挾んである絶縁板が抜け、右ヒーターに通電して着火、爆発するものであること

(二) 三重県教組書記局事務室で爆発した本件手製爆弾の威力は、(1)「バシーン」或いは「ボーン」という大きな音響と共に上方に火柱を噴き上げ、その火柱は爆弾の上方一九九センチメートルにある天井板にまで達し、天井板には黒色燃焼物の残渣が中心から東西に約九〇センチメートル、南北に約一九〇センチメートルの範囲で付着していること、(2)爆発の際、爆弾から約一・二メートル離れた地点にいたKは手首に火傷を負い、同じく約〇・七メートル離れた地点にいたMは髪を焦がしていること、(3)又、爆発により、爆弾が置かれていた机の上の書類に火が燃え移つていること、(4)爆発の直前に一旦閉じておいた化粧箱の蓋が爆弾本体から約一・二メートル位離れた床上まで飛んでいること、(5)爆発により燃焼物が爆発地点の周囲約四〇平方メートルの範囲に飛散していること、(6)そして、採取された右の燃焼物の中には、可燃物に当たればこれを焼損させ、人体皮膚等に当たれば火傷を生じさせる可能性がある煙火火薬粒が含まれていたこと、(7)警視庁科学捜査研究所において、右爆弾と同様の茶筒缶爆弾二個を製作し、これらを、それぞれ九〇センチメートル四方の金属製アングルにベニヤ板(厚さ三ミリメートル)を内張りして針金で固定したものの中に置いて爆発実験を行つたところ、右爆弾は、いずれも爆発状態を呈して茶筒缶がかし目部分から破壊され、そこから火柱状になつて反応中及び未反応の火薬が噴き出したことが推定され、そして、茶筒缶に入れておいた鉛製の釣用錘の大部分は缶外に飛び出し、又、爆発の際の衝撃によつてベニヤ板の一部がはがれたものもあつたことが観察され、その威力は人体等に損傷等を与えるものであつたこと

(三) 日教組本部に郵送された本件手製爆弾の威力については、警視庁科学捜査研究所において、被告人両名が使用したものと、ほぼ同じ茶筒缶、同じ仕掛の起爆装置、同じ六種類の玩具花火をほぐして得られた火薬を用いて、その混合比を変えた七種類の爆弾を製作し、これらを爆発させて鑑定しているが、その結果によると、右各爆弾は、いずれも三重県教組書記局事務室で爆発した爆弾と同様のものを製作して鑑定したところ(前記(7))と同等の威力を示していることが看取され、加えて、日教組本部に郵送された本件手製爆弾については、爆発の際飛散させる目的でパチンコ球七五個を茶筒缶内に入れているが、右各鑑定の結果によつても、これらが周囲に飛散することが確認されたこと、従つて、日教組本部に郵送された本件手製爆弾も三重県教組書記局事務室で爆発した本件手製爆弾と同等の威力を有するものであつたこと

がそれぞれ認められ、そして、これに、本件各手製爆弾がいずれも化粧箱の蓋を開披すると爆発する仕掛になつているため、爆発時、人の顔が爆弾の上方至近距離にあることも十分予想され、その危険度が一層高いものになつていること等を併せ考えると、本件各手製爆弾が爆発物取締罰則にいわゆる「爆発物」に該当することは明らかと言うべきであつて、被告人Aの弁護人のこの点に関する主張はこれを採用することができない。

二「治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的」の存在について

1  被告人Aの弁護人は、被告人Aは、本件各手製爆弾が極く軽微な威力しかないことを知りながらこれを郵送したのであるから、同被告人に治安を妨げる目的はなく、又、人の身体を害するという点についても単に未必的認識があつたに止まり、爆発物取締罰則所定の加害目的の存在を認定する上で必要と解すべき右の点についての確定的認識はなかつたのであるから、結局人の身体を害する目的もなかつた旨、又、被告人Bの弁護人も、被告人Bの治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的はすこぶる微弱かつ消極的なものであつた旨それぞれ主張し、被告人両名も当公判廷において、それぞれその弁護人の主張に沿う弁解をしているので、この点につき判断する。

2  前掲関係各証拠によれば、被告人Aは、本件各手製爆弾を製造する前に三回の爆発実験を行い、その結果、四個の乾電池を直列にして点火ヒーターにつなげばほぼ瞬時に火薬に着火することやそれによつて爆発した火薬が火柱状となつて噴き上がる威力があることを確認し、そのうちの二回については、被告人Bもそれを見分してその威力を認識していること、被告人両名は、いずれもXの指示により、爆弾内にパチンコ球や鉛製の釣用錘を入れ、これらを爆発の際に飛散させることによつて爆発の威力を高めようとし、又、化粧箱の蓋を開披すると爆弾が爆発する仕掛を考案し、本件各手製爆弾を、いずれも人が至近距離にいる状態で爆発するような構造のものにしていること、本件爆発物取締罰則違反は、日教組大会が開催される度に多くの右翼団体が種々の妨害活動をするのが通例となつている状態の中で、しかも三重県において日教組大会が開催される前に、三重県教組と日教組本部の各中央執行委員長宛に爆弾を郵送したものであるところ、そもそも被告人Aの右犯行の動機・目的は、日教組本部や三重県教組事務所内で、郵送した手製爆弾を爆発させ、その関係者を混乱に陥れると共にこれに脅威を与え、三重県での日教組大会の開催等日教組の活動を阻止妨害することにあつたものであり、他方、被告人Bにおいても、被告人Aの右意図を知悉した上で右各犯行に加担したものであること等の各事実が認められ、加えて、被告人両名は、捜査段階においては明確に「治安を妨げかつ人の身体財産を害する目的」についてこれを認める供述をしているところ、右各供述には何ら任意性に疑いを生ぜしめる事情がないこと等をも併せ勘案すると、被告人両名は、本件各手製爆弾が爆発すれば、右爆弾の付近に現在する日教組関係者の身体に危害を及ぼし、建物等にも物的被害を与え、それによつて社会にも相当な混乱を招来させて日教組関係者のみならず国民一般にも不安感を与えるものであることを十分認識し認容していたものと認められるから、被告人両名に「治安を妨げる目的」及び「人の身体財産を害する目的」があつたことは明らかであり、被告人両名の弁護人の右主張は採用できない。

三共謀について

1  被告人Aは、本件爆発物取締罰則違反につき被告人Bとの共謀の事実を否定し、被告人Bの弁護人も、被告人Bは、被告人Aの手足となり同被告人に命令されるままに本件爆発物取締罰則違反の犯行に及んだものであつて、被告人Bは被告人Aの右犯行を幇助したに過ぎない旨主張しているので、この点につき判断する。

2  前掲関係各証拠によれば、被告人Bの本件爆発物取締罰則違反への関与状況は次のようなものであつたことが認められる。即ち、被告人Bは、(1)被告人Aから爆弾を製造することを告げられるや、何の抵抗もなくこれに協力し、同被告人と共に、本件各手製爆弾を造る材料である茶筒缶、電池ホルダー、パチンコ球などを購入に出掛け、又、被告人Aが購入して来た玩具花火をほぐして、中の火薬を取り出す作業を行つていること、(2)被告人Aが行つた三回の爆発実験のうち、薬瓶を用いたものと、梅昆布茶缶を用いたものとの二回の実験について、これを見分していること、(3)本件各手製爆弾を製造するに当たり、被告人Aと共に、ガス点火用ヒーターにリード線を半田付けしたり、玩具花火をほぐして集めておいた火薬を茶筒缶内に詰めたり、更には、贈答用化粧箱を開披するのと同時に爆発する仕掛について、開披の際、開披した人に不自然な感じを与え、不審を抱かれるようなことがないかどうかを自ら試したりなどしていること、(4)本件各手製爆弾を三重県教組と日教組本部に郵送するに際して、贈答品であることを装うためののし紙に「寸志」の文字と差出人の氏名を、又、小包の表面には宛先、差出人名を各記載し、犯跡をくらますために差出人欄に架空人の氏名を記載するに当たつては、自ら進んで「佐々木哲郎」なる名前を考え出してこれを記載していること、(5)そして、本件各手製爆弾の威力につき、重傷者が出る可能性、特に蓋を開披した人が負傷して入院することになつたり、場合によつては死亡することもあり得るとまで考えながら、本件各手製爆弾を広島中央郵便局に持参して郵送していること、(6)更に、被告人B自身、本件各手製爆弾の製造や郵送に関与するに当たつては、被告人Aの意図、目的を知悉した上で、自己の役割を十分認識し、これが発覚した場合には、同被告人と共同して責任を負う覚悟までして同被告人と行動を共にしていること等が認められ、以上に照らすと、被告人Bの行為は、単に被告人Aの犯行を容易ならしめたというに止まらず、本件各手製爆弾の製造の過程においても、又その郵送の過程においても、自己の意思で主体的、積極的にこれに関与し、本件爆発物取締罰則違反の実行行為を被告人Aと分担し合つて遂行していると認めることができ、被告人Bを実行共同正犯として評価すべきことは明らかであり、被告人Aの右主張及び被告人Bの弁護人の右主張はいずれもこれを採用することができない。

(法令の適用)

被告人両名の判示第一の一の所為はいずれも刑法六〇条、爆発物取締罰則一条に、判示第一の二の所為はいずれも刑法六〇条、爆発物取締罰則二条に、被告人Aの判示第二の所為中、回転弾倉式改造拳銃一挺を不法に所持した点は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項に、散弾実包一二四発を不法に所持した点は火薬類取締法五九条二号、二一条にそれぞれ該当するところ、右の回転弾倉式改造拳銃一挺の不法所持と散弾実包一二四発の不法所持は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑で処断することとし、被告人両名の判示第一の一、二の各罪につき所定刑中いずれも有期懲役刑を、被告人Aの判示第二の罪につき所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し、被告人Aの以上の各罪及び被告人Bの以上の各罪は、いずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、被告人Aについては最も重い、被告人Bについては重い判示第一の一の罪の刑に同法一四条の制限内でそれぞれ法定の加重をし、被告人Bについてはなお犯情を考慮し、同法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をし、それぞれその刑期の範囲内で被告人Aを懲役七年に、被告人Bを懲役三年六月に処し、同法二一条を適用して被告人両名に対し、未決勾留日数中各一五〇日を、それぞれの刑に算入し、押収してある回転弾倉式改造拳銃一挺(昭和六〇年押第一四六六号の1)並びに散弾実包一一四発及び薬莢一〇個(同押号の2)は、いずれも被告人Aの判示第二の犯罪行為を組成した物で、同被告人以外の者に属しないから、同法一九条一項一号二項を適用してこれらを同被告人から没収し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書を適用してこれを被告人Bに負担させないこととする。

(量刑の事情)

本件爆発物取締罰則違反(以下単に本件という。)は、「一人一殺」を標榜し、右翼政治活動としてのテロリズムを容認するX主宰の右翼政治結社尊皇義塾「仁義社」の構成員である被告人Aとその愛人である被告人BがXと共謀の上、自己と意見や考え方を異にする日教組中央執行委員長らに対し爆弾攻撃を行うことによつてその活動等を封じ、自己の主義主張を貫徹しようとした事案であり、その所為は憲法秩序を否定し、暴力によつてこれを覆そうとするものであり、断じて容認することができないことは勿論、その態様も自らは安全圏にいて爆発による危険や検挙を免れつつ、爆発効果を期するという極めて自己中心的で卑劣極まりないものであること、本件が公共の安全と秩序に脅威をもたらし、社会一般に与えた衝撃、影響も大きいこと、更に、本件が追随者による連鎖反応を起こし易い犯罪であること等に鑑みると、この種事犯に対しては厳罰をもつて臨むことが必要であると言うべきところ、被告人Aについては、爆弾製造に関し、進んでこれが研究、実験に努めるなど本件において常に主導的役割を果したこと、本件各手製爆弾製造後には、なお、更に強力な爆弾の製造を目論んでいたなど強い爆弾志向も窺われること、又、特段の政治思想を持たない被告人Bを本件に引きずり込んでいること、公判に至るやあれこれ弁解を重ねて自己の刑責を軽減せんと企図するなど、未だ本件につき真摯に反省の態度を示しているとは必ずしも言い難いこと等に鑑みると、その犯情は誠に良くなく、他方、被告人Bも、被告人Aのために本件に関わることになつてしまつたとは言え、爆弾製造に当たつてはかなり主体的、積極的に手を貸している上、三重県教組及び日教組本部への本件各手製爆弾の郵送という重要な行為を一人で敢行していること等に照らすと、これ又、犯情は良くないと言うべきであり、被告人両名の刑事責任はいずれも重大であると言わざるをえない。しかしながら、他面において、本件各手製爆弾の殺傷、破壊力は幸いにもさほど高いものではなかつたこと、本件により現実に惹起された結果も、日教組本部に関するものは未然に発覚して爆発に至らず、又、三重県教組書記局事務室で爆発したものも幸いにしてその被害は比較的軽微であつたこと、被告人両名が本件を実行するに当たつて指導的な役割を果したのは「仁義社」の主宰者Xであつたこと、被告人両名にはこれまで前科前歴が全くないこと、特に被告人Bについては被告人Aに対する愛情からこれについて行こうとして盲目的に本件に関与したものであつて、本件での役割は被告人Aに比し従属的であつたこと、現在本件につき深く反省していること等酌むべき事情もあるので、これらを総合勘案した上、主文の刑を各量定した次第である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官生島三則 裁判官北 秀昭 裁判官尾島 明)

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